
今回のコラボレーションに
至った経緯を教えてください
実は、とても気に入っていてかれこれ10年近くも着続けているシャツがあるんです。もちろん、きちんとした白シャツを探そうと思えば、老舗メゾンを含め素敵なものも沢山あるのですが、クラシックなムードが強くなるとボトム選びにもちょっとした工夫が必要となり、どうしても気軽に羽織れる物ではなくなってしまうんですよね。一方で、ビッグシルエットなど今の気分を投影した物も、旬のスタイリングを楽しむには良いのですが長くは着られず……。ONでもOFFでもシーンを選ばずさらっと纏える物が、大人のクローゼットには必須で、そういった意味においてもきれい見えするコンサバ感は大切だと思うんです。
そんな“ちょうど良い”バランスを持ち合わせた例の10年選手のシャツ。次に代わる物がなかなか見つからず、でもさすがに生地も寿命が近づき、10年前にそのシャツを下さったバイヤーの方に相談してみたんです。そうしたところ、もともとシャツを得意とするブランドでもある1erさんに辿り着き、ありがたくも今回のコラボレーションが実現しました。
今の空気感を持ちながらも、その根底には揺るぎないコンサバ感がある。そういう物を作りたくて。


単なるベーシックとは
違うのですか?
例えば、本当に何でもないシャツにストレートデニム。いわゆるParisシックと呼ばれるような“ベーシック×ベーシック”の組み合わせって、髪の色や骨格の違いから日本人の私たちには結構ハードルが高いと思うんです。パリジェンヌの格好をそのまま取り入れてしまうと、ワンマイルウェアにもなりかねない。意外とべーシックって難しく「シャツがベーシックなら、合わせるパンツやスカートで雰囲気を出さなきゃ」と、スタイリングに知恵や術が必要となってくる気がしていて。
でも日常で欲しいのは、ただ纏うだけで良い、いわば“ワンツーで洒落て見える”服。それは単なるベーシックでは叶わず、きれい見えするコンサバ感と今の空気感が相まって成せるワザだと思うんです。やはりコンサバな要素はあったほうが美しく決まると思っていて、コンサバゆえの上品さや女性らしさがベースにあると、単なるベーシックとは似て非なる表情に。さらに、そこへちょっとしたモダンさが加わわることで、誰もがスタイリングに悩むことなく素敵に着こなせる物になるんじゃないか、と。
製作が進んでいく中で、具体的にこだわった点は何ですか?
シャツで言えば、まずは生地です。高級メゾンなどでもリネン100%は、その肌触りと風合いで人気が高く、リッチさを求める上でもやはり100%となるんだと思います。けれど、どうしても地厚になってしまうので、女性らしさや繊細さが薄れてしまい、今回作るシャツとしてはベストな選択ではないなと、上品な光沢感を持つラミーコットンを採用しました。
そして「洗って→また着て」を繰り返すタフな持続性を考えたとき、自分できちんとメンテナンスできるということも重要で、まず、クリーニングに出さなきゃいけなくなる素材は候補から外れ、気兼ねなく家庭で洗えることが条件でした。私はアイロンがけという一手間も好きなのでシャキっと仕上げますが、今回のラミーコットンは洗いざらしの風合いも良いので、着る方それぞれのスタイルで。
次にシャツのボタン位置です。ボタンを2つ外したとき、V字の先端がしっかり深い位置に来ることが、私の中での理想。なので、第3ボタンの位置をまず最初に決めて、そこを起点に残りのボタンを配置していきました。デザイナーさんは服職人さんでもあるので、忠実に1番上からボタン付けをしていくかもしれません。でも、私がシャツを着るなら「こういう着方なんです!」と、ある意味、掟破りな製作手順だったとしても、そこはこだわりたいポイントでした。ボタンの位置って、1㎝ズレるだけでも印象を大きく左右してしまうので。
おしゃれって“着こなすこと”だと思うんです。着飾ることや流行りのもので身を固めることではなく、気に入ったアイテムを自分のスタイルに落としこみ、自分にしかできないスタイルを完成させること。なので今回のコラボアイテムも、着る人のアイデア次第でいかようにでも表情を変えていく汎用性というものを強く意識しました。
私は第3ボタンまでの開きにこだわっていますが、もちろん全部のボタンをきっちり留める着こなしもOK。その人らしさが出せること、それがファッションの醍醐味ですよね。
フリルブラウスはまた違ったアプローチで楽しめそうですね!
「ちょっとしたドレスシーンにもいけるブラウスを!」ということで、フリルのスタンドカラーブラウスもラインナップに入れました。ジャケットやサマーニットとレイヤードすると、顔まわりがパッと華やかになり、また見え方が変わるので、その使い勝手の良さからワードローブに1枚あると重宝します。コーディネートに甘さを入れるときは“微糖”程度が好みなので、マニッシュ感ある端正なコットン素材をベースに選びました。ハリがあるので、襟のフリルも凜と立ち上がるのが特徴です。
フリル以外の部分では甘さを削ぎ落としたミニマルなデザインなので、ボトムを選びません。「少ないアイテム数で、スタイリングの印象をいろいろ操作できる」というのが、全体を通してのコンセプトで、今回は3型作らせていただきました。たった3つでもいろいろ着回すことができるので、ルックをご参照にしてみてください♡
丈に関しては当初INする想定で、少し長めにしようかとも考えていたのですが、実際、日本人の体型において一番洒落て見えるバランスはどこなのか? 身長別に1erさんのスタッフさんにもフィッティングいただいて、とことん検証しました。私がフィッティングして終わり、じゃない。むしろ日本人女性の平均身長は160㎝前後。でも実際は150㎝台の方も多く、その方たちが着こなすのにテクニックがいるとなったら大変じゃないですか。あらゆる視点を持って、バランスを決めていかないといけないと思ってます。
初夏のスラックス、
富岡さん流の着こなしは?
今回作ったスラックス、家庭で洗えるんです。日本の夏は年々暑さも湿気も激しさを増しているので、洗濯できるというのはとても大事なポイント。ここぞとばかりに、カラーバリエとして白を作ることもできました。
私のワードローブを見直してみてもテーパードのスラックスはとても優秀なので、ボトムを作るならこの一択、と決めていました。ハイライズということもあって、すっきり細長く見える視覚効果も!Iラインを仕掛けるフロントタックも、良いお仕事をしてくれます(笑)。
1枚仕立てで軽やかに着られるのに、そこまでリラックスしすぎて見えないのがカギ。どうしても夏は足元がサンダルだったり、スニーカーだったり、カジュアルになることが多いので、パンツはきれいめな1本を選ぶようにしています。このスラックスなら、ビルケンを履いても、Tシャツを着ても成立するんですよ。ハイライズだからスタイルも良く見えます。

10年間、変わらずに好きな物が
あること、とても素敵だと思います。
ブレないスタイルを持つ富岡さんの
ファッションセオリーとは?
ファッションが好きで、お買い物も好きですが、物はあまり持たないように心がけています。カテゴリーやアイテムごとの選抜会をマメに行い、厳選されたその一つ一つを大切にできる範囲で、いろんな着こなしを考えていくのが好きです。
例えば心惹かれる黒のスラックスに出会ったとき、それまでクローゼットの中にいたスラックスと比較。欲しいと思う気持ちが、元々あったスラックスを上回ればお迎えし、それまでのスラックスは手放します。そういった“二者択一”でふるいにかけていった結果、無双だったんですよ、10年選手の最愛シャツは(笑)。そして、今回のコラボシャツが誰かにとって次の10年選手になったら、そんなにも嬉しいことはありません。もちろん、少なくとも自分は着るつもりですが(笑)。
ここ数年、あらゆる物の価格が上がっていく中で、自分が「本当に良いと思う物」を見極めていくべき時代になったんだな、と実感しています。ものすごいスピード感で次から次へと多くの物が生み出される今、“◯◯の”という銘柄やブランド名ではなく、その物の価値をきちんと知って選んでいくことが、真の豊かさに繋がるのではないか、と。
そういう意味でも適正価格というのはとても大事で、きちんと物と向き合った値段を付けてくれるところには信頼が持てます。かつてのブランド信仰が見直されるべき、今はその過渡期。
日本のブランドでも、例えば岡山で作られているデニム、鯖江で作られている眼鏡……と、真摯に物造りをしているところもたくさんあって、今改めて日本のラグジュアリーというものにも着目しています。
今回の1erさんとのコラボレーションでも、自分が思い描いたもの、大切にしていきたいことをカタチにでき、本当に嬉しいです。
服の好みそのものは変わっていないけれど、自分の中でラグジュアリーの定義は確実に変わってきています。着心地はもちろんですが、スタイリングのしやすさだったり、気負うことなく楽しめる物だったり、自分のライフスタイルにフィットする物こそが、私にとってのラグジュアリーなんだ、と。

最後に今コンテンツを
ご覧になられている方々へ
メッセージをお願いいたします。
例えば10個20個のトレンドがあったとして、実際、自分のスタイルに落とし込めるものは、2つや3つだと思うんです。でも、その2つ3つを自分のものにしながら“らしさ”を更新していけたら素晴らしいなって思うんです。
ある程度いろんな服を着てきた人たちでも「最近このトップス似合わなくなってきた」とか、今まで着ていたのになんだか違和感が出てきて「何を着たらいいんだろう?」と、迷子になっている方々に是非とも試していただきたい仕上がりになっています。
ずっと“着る”ことを仕事にしてきた私が、本気で考えた理想のワードローブです。皆さんのスタイルにそっと寄り添える1着になれば幸せです。
富岡佳子/Yoshiko Tomioka
1969年生まれ。大阪府出身。19歳でモデルデビュー。数々の女性ファッション誌の表紙をはじめ、テレビ、広告等で活躍。2025年春まで8年半にわたり「eclat」(集英社)の表紙キャラクターを務めた。
その卓越したスタイルとファッションセンスは大人の女性からの支持が厚く、2024年から自身が欲しいもの、興味のあるものを提案するプロジェクト「ARGIET」をスタート。
インスタグラム @yoshikotomioka
WEBコンテンツ tomiokayoshiko.com